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最高裁判所第二小法廷 平成5年(オ)1285号 判決 1996年3月15日

上告人

全日本鉄道労働組合総連合会

右代表者執行委員長

福原福太郎

右訴訟代理人弁護士

水嶋晃

奥川貴弥

寺崎昭義

町田正男

被上告人

上尾市

右代表者市長

新井弘治

右訴訟代理人弁護士

関井金五郎

清野孝一

新井毅俊

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人水嶋晃、同奥川貴弥、同寺崎昭義、同町田正男の上告理由第一点及び第三点について

一  原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。

1  上尾市福祉会館(以下「本件会館」という。)は、被上告人が市民の文化的向上と福祉の増進を図るために設けた施設であり、一階には、大ホール(客席一一六八席)のほか、展示場、食堂、ラウンジ及び会館事務室が、二階及び三階には、四つの披露宴室(会議室兼用)と結婚式場、写真室、着付室、結婚控室等の結婚式関係の施設が、四階には、談話室、料理教室等公民館関係の施設が、五階には、小ホール(客席一六六席)と四つの会議室が設けられており、右大ホールと二階以上の各施設とは出入口を異にしている。なお、本件会館には、斎場として利用するための特別の施設はない。

2  本件会館の設置及び管理については、上尾市福祉会館設置及び管理条例(昭和四六年上尾市条例第二七号。以下「本件条例」という。)が定められており、本件条例五条によれば、本件会館を使用するについてはあらかじめ市長の許可を受けるべきものとされ、その許可要件を定める六条一項によれば、(1) 会館の管理上支障があると認められるとき(一号)、(2) 公共の福祉を阻害するおそれがあると認められるとき(二号)、(3) その他会館の設置目的に反すると認められるとき(三号)のいずれか一つに該当する場合は、市長は、会館の使用を許可しないものとされている。

3  被上告人は、本件条例に基づいて、本件会館の各施設を上尾市の住民に限らず、広く一般の利用に供していた。結婚式関係の施設については、年間約三〇〇組の利用客があった。被上告人は、本件会館の運営に当たり、基本的には葬儀のための利用には消極的であり、過去に特に功績のあった元市長の市民葬と県公園緑地協会副理事長の準市民葬に用いられたことがあったのを除き、本件会館は従来一般の葬儀のために使用されたことはなかった。

4  上告人は、いわゆるJR関係の労働者で組織する東日本旅客鉄道労働組合等の単位組合の連合体であるが、平成元年一二月二日に上告人の総務部長田中豊徳(以下「田中部長」という。)が帰宅途中に何者かに殺害される事件が発生したため、同人を追悼する合同葬(以下「本件合同葬」という。)を計画し、同月一六日、上尾市長に対し、本件合同葬の会場に使用する目的で、本件会館大ホールについて、平成二年二月一日、二日の両日(ただし、一日は準備のため)の使用許可の申請(以下「本件申請」という。)をした。

5  本件申請に対し、その許否の専決権者である本件会館の館長富岡日出男(以下「富岡館長」という。)は、本件合同葬のための本件会館の使用が、本件条例六条一項一号に規定する「会館の管理上支障があると認められるとき」に該当すると判断し、最終的には平成元年一二月二六日、本件申請を不許可とする処分(以下「本件不許可処分」という。)をしたが、その経緯は、次のとおりである。

(一)  上告人の総務財政局長柳沢秀広(以下「柳沢局長」という。)は、平成元年一二月一六日に本件申請を行った際、富岡館長が不在のため応対にでた本件会館の職員に対し、本件合同葬が故人を追悼するための集会であるなどその内容を説明するとともに、田中部長の殺害事件に関し、捜査当局が対立するセクトによるいわゆる内ゲバ事件ではないかとみて捜査を進めている旨報じている新聞記事があることを伝えた。

(二)  富岡館長は、平成元年一二月一九日、柳沢局長らに対し、「新聞に出ているような事柄での葬儀を執り行うことについては、本件会館を貸せない。」「合同葬は会館の使用にそぐわない。」などと述べて、本件会館の使用が本件条例六条一項一号に該当することを理由に、本件申請を許可することができない旨回答した。これに対し、柳沢局長らは、納得せず、文書による回答を求めた。

(三)  富岡館長は、平成元年一二月二二日、柳沢局長らに対し、本件申請については、本件条例六条一項一号に該当するから許可することができない旨を記載した文書を手交した。これに対し、柳沢局長らは、過去に主催した同様の合同葬において混乱が生じたことはなく、本件合同葬においてもそのような兆候はない上、自主警備や警察による警備によって混乱を予防排除することが可能であるなどと反論し、再検討を強く要請したため、富岡館長は、これを約束した。

(四)  富岡館長は、平成元年一二月二五日、被上告人の助役らと協議した結果、本件合同葬のため本件会館の使用を許可した場合には、上告人に反対する者らが本件合同葬を妨害するなどして混乱が生ずることが懸念され、同会館内の結婚式場その他の施設の利用にも支障が生ずるとの結論に達し、市長の了解を得た上、翌二六日、柳沢局長らに対し、右の理由を説明して、本件申請を不許可とする旨の最終的な判断を示した。

6  本件申請当時、平成二年二月一日及び二日の結婚式場等の使用申込みはなく、その後も申込みはなかった。また、本件合同葬は、同年一月二七日、日比谷公会堂に会場を移し各政党の国会議員も参列して行われたが、何らの妨害行為もなく終了した。

二  原審は、右の事実関係に基づき、次のように説示して、本件不許可処分が適法であると判断した。(1) 本件申請当時、前記のような記事が新聞各紙に報じられていたのであるから、被上告人側において、本件合同葬の際にも田中部長を殺害した者らによる妨害が行われて混乱が生ずるかもしれないと危ぐすることが根拠のないものであったとはいえない。(2) 本件合同葬を大ホールで行う場合には、そのための案内や多数の葬儀参加者の出入りが他の利用客の目に触れることは避けられないから、本件会館で同時期に結婚式等を行うことは事実上困難である。(3) 本件合同葬について警備が行われる場合には、その他の施設の利用客に多少の不安が生ずることも否めない。(4) 被上告人は、本件会館の運営に当たり、基本的には葬儀のための利用には消極的であり、前記の元市長の市民葬等を除き、本件会館が従来一般の葬儀のために使用されたことはなく、本件会館には、斎場として利用するための特別の施設もない。(5) 以上の各事実を合わせ考えれば、本件会館内の施設のそれぞれについて設置目的に従った有効な利用を確保すべき責務のある富岡館長が、本件合同葬のために大ホールを使用することが本件会館の管理に支障を生ずると認めたことには、相当の理由がある。

三  しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

1  本件会館は、地方自治法二四四条にいう公の施設に当たるから、被上告人は、正当な理由がない限り、これを利用することを拒んではならず(同条二項)、また、その利用について不当な差別的取扱いをしてはならない(同条三項)。本件条例は、同法二四四条の二第一項に基づき、公の施設である本件会館の設置及び管理について定めるものであり、本件条例六条一項各号は、その利用を拒否するために必要とされる右の正当な理由を具体化したものであると解される。

そして、同法二四四条に定める普通地方公共団体の公の施設として、本件会館のような集会の用に供する施設が設けられている場合、住民等は、その施設の設置目的に反しない限りその利用を原則的に認められることになるので、管理者が正当な理由もないのにその利用を拒否するときは、憲法の保障する集会の自由の不当な制限につながるおそれがある。したがって、集会の用に供される公の施設の管理者は、当該公の施設の種類に応じ、また、その規模、構造、設備等を勘案し、公の施設としての使命を十分達成せしめるよう適正にその管理権を行使すべきである。

以上のような観点からすると、本件条例六条一項一号は、「会館の管理上支障があると認められるとき」を本件会館の使用を許可しない事由として規定しているが、右規定は、会館の管理上支障が生ずるとの事態が、許可権者の主観により予測されるだけでなく、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測される場合に初めて、本件会館の使用を許可しないことができることを定めたものと解すべきである。

2  以上を前提として、本件不許可処分の適否について判断する。

(一)  本件不許可処分は、本件会館を本件合同葬のために利用させた場合には、上告人に反対する者らがこれを妨害するなどして混乱が生ずると懸念されることを一つの理由としてされたものであるというのである。しかしながら、前記の事実関係によれば、富岡館長が前記の新聞報道により田中部長の殺害事件がいわゆる内ゲバにより引き起こされた可能性が高いと考えることにはやむを得ない面があったとしても、そのこと以上に本件合同葬の際にまで上告人に反対する者らがこれを妨害するなどして混乱が生ずるおそれがあるとは考え難い状況にあったものといわざるを得ない。また、主催者が集会を平穏に行おうとしているのに、その集会の目的や主催者の思想、信条等に反対する者らが、これを実力で阻止し、妨害しようとして紛争を起こすおそれがあることを理由に公の施設の利用を拒むことができるのは、前示のような公の施設の利用関係の性質に照らせば、警察の警備等によってもなお混乱を防止することができないなど特別な事情がある場合に限られるものというべきである。ところが、前記の事実関係によっては、右のような特別な事情があるということはできない。なお、警察の警備等によりその他の施設の利用客に多少の不安が生ずることが会館の管理上支障が生ずるとの事態に当たるものでないことはいうまでもない。

(二)  次に本件不許可処分は、本件会館を本件合同葬のために利用させた場合には、同時期に結婚式を行うことが困難となり、結婚式場等の施設利用に支障が生ずることを一つの理由としてされたものであるというのである。ところで、本件会館のような公の施設の供用に当たって、当該施設の設置目的を専ら結婚式等の祝儀のための利用に限るとか、結婚式等の祝儀のための利用を葬儀等の不祝儀を含むその他の利用に優先して認めるといった運営方針を定めることは、それ自体必ずしも不合理なものとはいえないものというべきところ、被上告人は、本件会館の運営に当たり、基本的には葬儀のための利用には消極的であり、一部の例を除き、本件会館は従来一般の葬儀のために使用されたことはなかったというのである。しかし、本件会館には、斎場として利用するための特別の施設は設けられていないものの、結婚式関係の施設のほか、他目的に利用が可能な大小ホールを始めとする各種の施設が設けられている上、一階の大ホールと二階以上にあるその他の施設は出入口を異にしていること、葬儀と結婚式が同日に行われるのでなければ、施設が葬儀の用にも供されることを結婚式等の利用者が嫌悪するとは必ずしも思われないこと(現に、市民葬及び準市民葬が行われたことがある。)をも併せ考えれば、故人を追悼するための集会である本件合同葬については、それを行うために本件会館を使用することがその設置目的に反するとまでいうことはできない。そして、前記の事実関係によっても、本件会館について、結婚式等の祝儀のための利用を葬儀等の不祝儀を含むその他のための利用に優先して認めるといった確固たる運営方針が確立され、そのために、利用予定日の直前まで不祝儀等のための利用の許否を決しないなどの運用がなされていたとのことはうかがえない上、上告人らの利用予定日の一箇月余り前である本件不許可処分の時点では、結婚式のための使用申込みはなく、現にその後もなかったというのである。

以上によれば、本件事実関係の下においては、本件不許可処分時において、本件合同葬のための本件会館の使用によって、本件条例六条一項一号に定める「会館の管理上支障がある」との事態が生ずることが、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測されたものということはできないから、本件不許可処分は、本件条例の解釈適用を誤った違法なものというべきである。

四  そうすると、以上に判示したところと異なる見解に立って、本件不許可処分が適法であるとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず、その違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決はこの点において破棄を免れない。そして、本件については、上告人の主張する本件不許可処分に基づく損害の有無、その額等について更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻すのが相当である。

よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官根岸重治 裁判官大西勝也 裁判官河合伸一 裁判官福田博)

上告代理人水嶋晃、同奥川貴弥、同寺崎昭義、同町田正男の上告理由

第一点 原判決には、集会の自由を定める憲法二一条一項、法の下の平等を定める憲法一四条、公の施設の利用について定める地方自治法二四四条二項ならびに上尾市福祉会館設置及び管理条例(以下「本件会館設置管理条例」という)六条一項一号の解釈適用について、明らかに判決に影響を及ぼす違背がある。

一1 第一審判決は、本件会館の管理権者に許される裁量の程度について、次のとおりいわゆる覊束裁量であると判断した。

「本件会館は、被告が市民の文化的向上と福祉の増進を図るために設置したものであり、客席一一六八席を有する大ホールをはじめ、会議室、結婚式場等利用目的に応じて多数の部屋が設けられている(甲第一号証、第四号証)。右の設置目的、構造及び規模に照らせば、本件会館は多数の者が利用することを予定した公の施設であると言うべきであり、このような施設にあっては、地方公共団体は正当な理由がない限り利用を拒んではならないものとされている(地方自治法二四四条二項)。

地方自治法のこの規定は、憲法二一条一項が保障する集会の自由が、民主主義社会を支える根幹となる表現の自由の一つであるという重要性を考慮して設けられたものであると解される。

このような集会の自由の重要性に鑑みれば、利用を拒む正当な事由は最小限度に止められるべきであるとともに、右事由は管理権者が主観的に存在すると考えれば足りるのではなく、客観的事情に基づいて存在すると認められるものでなければならない。

本件会館設置管理条例六条の不許可事由もまた、憲法二一条一項、地方自治法二四四条二項の精神に適合するよう解釈されなければならないとともに、その存否の判断は、客観的かつ合理的になされなければならない。

このように本件会館の管理権者は、法規により限定された範囲内で裁量権を有するにすぎないのであり、被告が主張するような広範な裁量権を有するものではない。」

2 ところが、原判決は、右の管理権者の基本的裁量権について明らかにしないまま、実際には、本件会館設置管理条例六条の不許可事由の一つである「管理上支障のあるとき」について、管理権者の主観的、政策的な広範な裁量権を有するものとしている。

すなわち、原判決は、「管理上の支障のあるとき」に該当するとして判断した具体的事由は、

① 管理権者が、本件合同葬の際にも田中部長を殺害した者らの妨害が行われて混乱が生ずるかも知れないと危惧することが根拠のないものであったとはいえないとして、混乱が生ずるかも知れないとの主観的な危惧感を一つの理由としたこと

② 本件合同葬を行うと、そのための案内や参加者の出入りが他の会館利用者の目に触れることはさけられないから、本件会館で同時期に結婚式等を行うことは事実上困難であること

③ 本件合同葬について警備が行われた場合、他の利用客に多少の不安が生じることは否めないこと

等であり、いずれも被上告人館長の主観的、恣意的に判断した事由を理由としている。

二 原判決は、右のように、憲法二一条一項、地方自治法二四四条二項の精神に適合するように本件会館設置管理条例六条の不許可事由を解釈して不許可事由の存在について客観的かつ合理的な判断をなすべき義務について否定し、不許可事由について憲法二一条一項、地方自治法二四四条二項の趣旨を無視して広範な裁量権を認めており、明らかに憲法二一条一項、地方自治法二四四条二項、本件会館設置管理条例六条の解釈を誤ったものである。

1 本件会館設置管理条例六条一項一号は、「会館の管理上支障があると認められるとき」を本件会館の使用不許可事由としているが、このような漠然とした基準による許可制の合憲性について疑問が語られているが(注釈日本国憲法(上) 青林書院新社 四四四頁参照)、少くともこの場合の管理権者の裁量権は、自由裁量行為ではなく覊束裁量行為と解されるべきものである。

すなわち、地方自治法二四四条二項は、普通地方公共団体は正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならないとし、また、同条三項は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならないと定めていること、右地方自治法の規定は、憲法二一条の集会、結社、表現の自由の密接に関連する規定であることなどからすれば、本件条例の右規定は、管理権者による主観的あるいは政策的な判断を許すものではなく、客観的にみて管理運営上の支障を生じる蓋燃性が合理的に認められる場合にのみ使用を承認しないことができることを定めたものと解すべきである。そして、使用申込者が当該地方公共団体の住民でない場合においても憲法一四条一項の趣旨より、当該地方公共団体の住民と同様に扱われるべきものである。

そして、具体的には「管理上の支障」の「管理」は原則として「通常は限定的に当該施設の構造等物的設備としての施設の管理を指すと解すべきであり」、例外的に、他の基本的人権を直接侵害する明白かつ現在の危険があるような場合に限って使用不許可とされるべきものである。

2 また、「管理上の支障」について、一般に原則として治安上の問題を考慮すべきものではないとされている。治安上の問題は、元来警察の対処すべき問題であって、反対勢力や集会に対する敵意をもつ観衆の存在によって治安妨害の発生するおそれのある場合については、「正当な権利の行使者を法律上弾圧すべきでない」とするイギリス判例上の確立された法理が原則として妥当するものである(憲法Ⅱ 人権(1) 芦部信喜編 有斐閣大学双書五七六頁参照)。

第一審判決が、「管理上の支障」に該当するのは「警察が警備をしてもなお利用者や近隣住民の生命等に危害が加えられる危険性が高度に存在する場合に限られると解するべきである。けだし、外部からの攻撃等を防ぐために警察の警備を必要とすることを理由に安易に集会を拒むことを認めることは、暴力をおそれるあまり集会の自由を規制することを認めるに等しいこととなり、ひいては違法な暴力行為を助長して民主主義社会の存立を危うくすることになりかねないからである。むしろこのような場合、地方公共団体は、可能な限り手段を尽くして違法な暴力から集会を擁護することが、憲法の精神にそうものであると言うべきである。」と判示しているのも、前記イギリス判例法理と同一趣旨である。

従って管理上の支障とは、警察が警備をしてもなお利用者や近隣住民の生命等に危害を加えられる危険性が高度に存在する場合に限定されるものである。

よって、原判決のいうような混乱が生ずるかもしれないとの管理者の危惧感や、警備があることによる他の利用者の不安感などは全く管理上の支障には該当しないものである。本件の場合、第一審判決が認めるとおり、警察が警備をしてもなお利用者や近隣住民の生命等に危害が加えられる危険性が高度に存在するという状況も全く存在しないものであるから、なんら「管理上の支障」は存在しないことは明らかである。

3 原判決は、同一会館内での合同葬と結婚式とが競合した場合、結婚式を行うことが事実上困難であることを一つの理由として挙げている。

(一) ところで、同一のホール・集会場で同じ日時に集会が二以上に及ぶ場合は、いわゆる申請の競合の問題があるが、このような場合には、可及的に機械的原則が妥当すべきであるとされ、原則として申請順になされるべきものとされ、同時申請の場合抽せんが行われるのが原則である(前同書五七六頁参照)。

本件の場合、本件会場のホールの使用申請者は上告人以外には存在せず、競合の問題は存在しなかった。また、結婚式等の使用申込者も存在しなかったものであるから、前記原則からして、将来結婚式場使用を申込する者がいる可能性などは判断事由より排除して、申請順に許可、不許可の判断を客観的事情に基づいてなすべきことが公正な方法である。原判決の如く、将来あるかもしれない結婚式利用申込者の可能性をおいて使用の許否を判断することは、事実上、結婚式にそぐわないと管理者によってみなされる各種集会が一切拒否されてしまうことになるのである。このような将来の不確定的な予測をもとに判断すること、客観的かつ合理的になされるべき「不許可事由」の解釈とはいいえないものである。

(二) また、原判決のように、合同葬を行うと同時期に結婚式等を行うことは事実上困難であることを理由に「管理上の支障」なる不許可事由の一つとすることは、本件会館設置管理条例の解釈としても、極めて不合理なものである。

本件会館設置管理条例は、本件会館設置目的を「市民の文化的向上と福祉の増進」としており、その設置目的を客観的に解釈してみても、結婚式を優先的に扱っているものではない。また右条例において、結婚式を優先的に使用させる旨の規定は一切存在せず、原判決のような結婚式に事実上優先利用権を認める条例上の根拠は全く存在しないものである。従って、合同葬と同時期に結婚式等を行うことが事実上困難であることなどは、一切「管理上の支障」なる不許可事由になりえないものである。

よって、原判決には、憲法二一条、一四条、地方自治法二四四条二項、本件会館設置管理条例六条の解釈適用において、判決に影響を及ぼす重大な違背がある。

第二点 原判決には、従来の判例に違反した、法令の解釈の誤りがあり、明らかに判決に影響を及ぼす違背がある。

一 原判決は、前記第一点一、2で述べたとおり、本件会館設置管理条例六条の不許可事由についての、管理権者の裁量権を第一審判決が自由裁量行為であることを否定し、覊束裁量としたことについて明確に判断しないまま、実質上、同条例六条一項一号の「管理上支障のあるとき」について、主観的、政策的な広範な裁量権を有するものとして、管理権者の混乱が生ずるかもしれないとの危惧感等、管理権者の主観的な判断による、広範な裁量権を認め不許可事由があるとした。

二 しかしながら、原判決の会館管理権者の基本的裁量権についての解釈は、明らかに従来より蓄積されてきた判例の流れに違反して、地方自治法二四四条二、三項、本件会館設置管理条例六条の解釈適用を誤ったものである。

すなわち、

1 最高裁昭和二八年一二月二三日大法廷判決(民集七巻一三号一五六一頁)は、いわゆる「皇居外苑の使用不許可処分取消等請求事件」であるが、その中で、国の公共福祉用財産の管理権行使について、これが覊束裁量行為(法規裁量行為)であることを明らかにしている。

すなわち、

「……しかし、公共福祉用財産には多くの種類があり、それが公共の用に供せられる目的は財産の種類によって異なり、また、それが公共の用に供せられる態様及び程度も財産の規模、施設のいかんによって異なるもののあることは当然である。従って、上述のごとく公共福祉用財産は、国民が均しくこれを利用しうるのは、当該公共福祉用財産が公共の用に供せられる目的に副い、且つ公共の用に供せられる態様、程度に応じ、その範囲内においてなしうるのであって、これは、皇居外苑の利用についても同様である。……その利用の許否は、その利用が公共福祉用財産の、公共の用に供せられる目的に副うものである限り、管理権者の単なる自由裁量に属するものではなく、管理権者は、当該公共福祉用財産の種類に応じ、またその規模、施設を勘案し、その公共福祉用財産としての使命を十分達成せしめるよう適正にその管理権を行使すべきであり、若しその行使を誤り、国民の利用を妨げるにおいては、違法たるを免れないと解さなければならない。」

2 右の判例の趣旨は、地方自治法二四四条一項にいう「公の施設」についても妥当するように解され、その後の判例でも同法の公の施設についての管理権者の裁量権について、覊束裁量として解釈している。

例えば、東京高裁平成四年一二月二日判決(判例時報一四四九号九五頁以下)は、本件会館設置管理条例六条一項一号と同様の規定を有する静岡県総合社会福祉会館の設置、管理及び使用料に関する条例について、次のとおり判断している。「本件条例五条二号は、『管理及び運営上支障があるとき』を本件会館の使用不承認事由としているところ、地方自治法二四四条二項は、普通地方公共団体は正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならないとし、また、同条三項は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならないと定めていること、右地方自治法の規定は、憲法二一条の集会、結社、表現の自由の密接に関連する規定であることなどからすれば、本件条例の右規定は、管理権者による主観的あるいは政策的な判断を許すものではなく、客観的にみて管理運営上の支障を生じる蓋然性が合理的に認められる場合にのみ使用を承認しないことができることを定めたものと解すべきである。」

3 その他下級審判決においても、多数の同様の判例が存在する。

① 福岡地裁小倉支部 平成元年一一月三〇日判決

(築城公民館使用不許可取消損害賠償請求事件 判例自治六八号三五頁)

② 福岡地裁小倉支部 昭和五五年二月四日判決

(北九州市若松文化体育館使用不許可損害賠償請求事件 判例時報九七五号七九頁)

③ 神戸地裁尼崎支部 昭和五五年四月二五日判決

(芦屋市市民会館使用不許可等損害賠償請求事件 判例時報九七九号一〇七頁)

④ 京都地裁 平成二年二月二〇日決定

(京都府立勤労会館使用承認処分の効力停止申立事件 判例時報一三六九号九四頁)

⑤ 本件第一審判決も同旨

4 右判例の傾向は、公の施設に関する各種条例の使用不許可事由について、地方自治法二四四条二項三項の規定の存在、右地方自治法の規定が、憲法二一条集会、結社、表現の自由の密接に関連する規定であることなどから、各条例の規定は、「管理権者による主観的あるいは政策的な判断を許すものではなく、客観的にみて管理運営上の支障を生ずる蓋然性が合理的に認められる場合にのみ使用を承認しないことができることを定めたもの」と解すべきものだとしている。

そして、条例上の「管理上の支障」という不許可事由についても、「集会の自由の重要性に鑑みれば、右『管理』とは、通常は限定的に当該施設の構造等物的設備としての施設の管理を指すと解すべきである」として、管理上の支障を施設の物理的支障に限定することを原則とし、例外的に、施設の使用承認がかえって他の基本的人権を直接侵害し、かつそのおそれが明白な場合に管理上の支障があるとしているのである。(前記3②福岡地裁小倉支部昭和五五年二月四日判決)

さらに、当該集会に反対する者らの妨害行為のおそれがあることについても、判例は「妨害活動は、集会、結社、言論の自由に対する不法な実力行使であり、民主主義社会において許容されるべきものではないのであるから、公の施設の管理運営を図る責任者としては、そのような妨害活動が予測されるときは、まず警察に警備を要請するなどの方法により、それを防ぐ措置を講ずべきであり、それをしないまま安易に管理運営上の支障を理由に使用を拒むことは許されない」(東京高裁平成四年一二月二日判決 判例時報一四四九号九五頁)と判示し(その他本件第一審判決、前掲福岡地裁小倉支部平成元年一一月三〇日判決等)、妨害行為による混乱のおそれが、管理上の支障に該当する場合は、例外的に必要最小限に限定するものとされているのである。

5 地方自治法二四四条二項三項は、直接には地方公共団体と当該地方公共団体の住民との間の関係を規定した法律である。

しかし、憲法の精神、とりわけ法の下の平等を保障し(一四条一項)、集会の自由を保障し(二一条一項)、更に地方自治を強化するとともに(第八章)、地方公共団体に対し、民主主義社会の発展とその基礎となる基本的人権の擁護に積極的役割を果たすことを期待していると考えられることに鑑みれば、当該地方公共団体の住民に合理的と認められる範囲で優先的地位を与えることは格別、その範囲を越えて住民以外の者を不利益に差別することは許されないと言うべきである。

従って、住民以外の者に対しても、住民に対すると同様の取扱いをすべきものである。

よって、前記各判例の趣旨は、使用許可申請者が住民以外の者である場合にも異ならないものと解すべきものである。

6 しるかに原判決は、前記の各判例に違反し、地方自治法二四四条二、三項、本件会館設置管理条例六条の解釈適用を誤り、施設管理権者に広範な裁量権を認め、管理権者の主観的、政策的な判断をもって本件不許可処分を適法としたものである。従って、原判決は前記各判例に違反し、地方自治法二四四条二、三項、本件会館設置管理条例六条の解釈を誤ったものであることは明らかである。

第三点 原判決には、理由不備、もしくは経験則に違反して証拠の取捨選択を行い、その結果重大な事実誤認が存在する。これが判決に影響を及ぼす法令違背があることは明らかである。

一 理由不備

1 本件訴訟は一見記録より明らかなとおり、第一審より本件会館のような「公の施設」の利用において、その使用を不許可にする場合の管理権者の基本的裁量権の程度、及び、住民以外の利用者との関係における裁量権の程度が一つの中心的争点であった。

2 第一審判決は、本件会館の管理者である館長富岡及び使用申請者柳沢を証人尋問し、詳細にその判断をなした。

すなわち、第一審判決は、「地方自治法二四四条二項は憲法二一条一項が保障する集会の自由が、民主主義社会を支える根幹となる表現の自由の一つであるという重要性を考慮して設けられたものである。集会の自由の重要性に鑑みれば、利用を拒む正当事由は最小限度に止められるべきであるとともに、右事由は管理権者が主観的に存在すると考えれば足りるのではなく、客観的事情に基づいて存在すると認められるものでなければならない。本件会館設置管理条例六条の不許可事由も憲法二一条一項、地方自治法二四四条二項の精神に適合するよう解釈されなければならないとともに、その存否の判断は客観的かつ合理的になされなければならない。本件会館の管理権者は、法規により限定された範囲内で裁量権を有するにすぎないのであって、被告の主張するような広範な裁量権を有するものではない」と判断し、基本的裁量権を覊束裁量行為としつつ、住民以外の利用者についても憲法一四条一項等から「当該地方公共団体の住民に合理的と認められる範囲で優先的地位を与えることは格別、その範囲を越えて住民以外の者を不利益に差別することは許されない。管理権者の裁量の程度は基本的には住民と住民以外の者とで異ならない」と判断した。

3 ところで、公の施設の管理権者の裁量の程度については、前記第二点に述べたとおり、多数の判例が存在し、高裁レベルでも東京高裁平成四年一二月二日判決(判例時報一四四九号九五頁以下)が同種の条例について、「管理及び運営に支障があるとき」とは「管理権者による主観的あるいは政策的な判断を許すものではなく、客観的にみて管理運営上の支障を生じる蓋然性が合理的に認められる場合にのみ使用を承認しないことができることを定めたもの」と解すべきだとしているのである。

4 しかるに、原判決は、前記の従来の判例ならびに第一審の詳細な判断について、なんらの合理的な理由も附せないまま第一審判決を覆えした。しかも、本件会館設置管理条例六条一項一号の「管理上の支障あるとき」について、その概念規定、裁量の程度、住民以外の利用者との関係における裁量権の程度についてもなんら明らかにしないまま判断を下したのである。

これは、明らかに理由不備というべきであって、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

二 経験則違反

1 本件訴訟の経過

(一) 第一審判決は、被上告人の本件会館使用不許可の理由として、①本件会館は上尾市民に優先的利用権があること、②本件合同葬は警備を必須とするものであり、このような催し物は市民感情にそぐわないものであること、③本件会館には他に部屋があるが、本件合同葬の開催はそれらの利用者に迷惑をかけること、の三点を争いのない事実として認定していた。

これは、訴状請求原因第三項3の事実を被上告人が第一審当初より認めてきたからである。

そして、被上告人の本件会館使用不許可の理由の中心は、第一審で被上告人が主張したとおり、「まずなによりも、本件は集会主催の目的を問題として拒否したものではない」「不許可理由の中心は『違法な手段等を行使して妨害』や『混乱』が発生すること自体というよりも、それ以前にかかる事態の発生の危険による不安を近隣住民や利用住民に与えかねないような部外者の集会のために、使用に供することへの懸念や住民感情への配慮にある」(第一審 被告平成二年五月一一日付準備書面)として、不許可理由の中心は、管理者の「懸念」や「住民感情への配慮」にあったとしていた。そして、被上告人側の証人富岡もこれに添う供述をしていたのである。すなわち、証人富岡は、不許可事由は「葬儀に対する妨害のおそれを感じたからではない」(第一審 第六回口頭弁論調書七丁)「集会を主催する目的を問題としたものではない」(前同九丁)とし、「一番重要視したのは、地域住民の不安や平穏ですね。それから、それを懸念する住民感情、そういったことです」(前同二二丁、八丁)と証言し、不許可の中心理由を管理者側の住民感情への配慮にあった旨供述した。

なお、第一審段階においては、本件会館内の結婚式場の利用について支障になるなどということは、一切主張もされていなかった。

(二) ところで、第二審にいたり、被上告人は、混乱の可能性が高いとか本件会館は葬儀として使用することは希であり、本件合同葬に使用を認めた場合は結婚式ができなくなる等と唐突に主張しはじめたのである。

2 ところが、原判決は、被上告人が使用不許可の最終判断の理由は、①上告人に反対する者が本件合同葬を妨害するなどとして混乱が生じることが懸念されること、②使用目的が大規模な葬儀の挙行にあり、これを許可した場合は、当日本件会館内の結婚式場その他の設備の利用にも支障が生じると判断したことだと認定し、更に、

① 被上告人側において、本件合同葬の際にも、田中部長を殺害した者らの妨害が行われて混乱が生ずるかもしれないと危惧することが根拠のないものであったとはいえない

② 本件会館は、大ホールと二階以上の各施設とは出入口を異にするものの、大規模な葬儀を大ホールで行う場合には、そのための案内や参加者の出入りが他の利用客の目に触れることは避けられないから、本件会館で同時期に結婚式等を行うことは事実上困難であること

③ 本件合同葬について警備が行われる場合には、他の施設の利用客に多少の不安が生じることも否めないこと

④ 本件会館は結婚式場があるため、基本的には葬儀のための利用には消極的であり、従来より一部を除き一般葬儀には使用されていないこと、斎場の設備がないこと

等の事実を認定し、これを総合判断して、管理上支障があるとしたことには相当の理由があるとし、本件不許可処分を適法とした。

3 しかしながら、前記の①②及び①乃至④の各事実を認定するにあたり、原判決は経験則を無視した、恣意的に証拠の一部を取捨選択して事実認定しているものである。

すなわち、

(一) 原判決は、本件使用不許可の最終判断理由は、①混乱が生じることが懸念されたこと ②合同葬儀を実施すると、当日結婚式場その他の設備の利用に支障が生じると判断したことを挙示している。

① しかし、前記1(一)で詳述したとおり、被上告人は第一審以来、「妨害や混乱が発生すること自体よりも、かかる事態の発生の危険による不安を近隣住民や利用住民に与えかねないような部外者の集会に供することへの懸念や住民感情への配慮にある」と主張し、証人富岡も「葬儀に対する妨害のおそれを感じたからではない」(第一審 第六回口頭弁論調書七丁)「一番重視したのは地域住民の不安や平穏、それを懸念する住民感情」(同二二丁等)であるとしていたのであって、「混乱が生ずることが懸念された」のではなく、「住民感情への懸念や配慮」が被上告人の中心的拒否理由であったことは明らかである。

しかるに、原判決は、被上告人館長らの住民感情への配慮や懸念という中心的拒否理由や、「上尾市民に優先的利用権があるとの」拒否理由を一切恣意的に無視し、混乱が生じることが懸念されるなどと、恣意的に描き出しているのである。

なお、原審小池証人は、「警備要請を警察にしたということは、やはり混乱が多少起こるであろう、そうすると、事故が起こった場合の管理責任は会館が負わねばならない」(第四回 二〇項)と供述しているが、これはたんに上告人が会館の指示で警察にいったことを警備要請とうけとめ、警備要請をしたことから多少の混乱が生ずる可能性を予測したものにすぎず、これ自体合理性がないものであり、なんら具体的に混乱が生ずることを懸念したことを示すものではない。実際、小池証人は警察が警備をしても混乱がおこるなどといっていないことも認めているのである(同第五回 二一丁)。

以上のとおり被上告人が第一審以来一貫して中心的拒否理由としていた上尾市民に優先権があり、それ故「部外者の集会」に供する「懸念」や「市民感情」に配慮して拒否したなる理由を一切無視して、前述したような「混乱が生じることの懸念」なる拒否理由を理由としたことは、経験則を無視した採証法則を誤ったものといわなければならない。

② また、合同葬を実施すると、当日結婚式場等その他の設備の使用に支障が生じるとの理由は、当時全く拒否理由になっていなかったものである。

すなわち、第一審証人富岡は、結婚式場に支障が生ずることなど一切供述していない。また原審小池証人も、富岡館長が本件申込当時、結婚式と重なるおそれがあるということを上告人に伝えていないことを認めており(第五回 一〇丁)、結婚式の障害になるなどということが問題になっていないことを示すものである。

更に富岡証人は、一階の大ホールと他の施設が別の入口になっており、物理的に区画され、影響をうけない構造になっていることを認め、他の施設の利用者が迷惑になることについては、駐車場が同じであること(第一審 第六回 二一丁)といった程度のことを挙げているのであるから、なんら他の施設の利用者の関係上具体的支障があることとはいえず、まして、客観的、合理的な「管理上の支障」というべきものでは全くないのである。

③ 逆に原判決は、被上告人が本件会館使用不許可にした中心的理由をあえて無視して、当初から問題にさえなっていなかった会館設置目的に重点をおき、本件会館は基本的には葬儀として使用することは異例なものであるとし、本来理由となっていなかった別個の理由を中心にして、もって不許可を合理化しているのである。

これはまさに証拠の取捨選択において、経験法則を無視した、まさに恣意的な判断というべきである。

本件会館の設置目的において、本件会館設置管理条例上、葬儀としての使用は異例のものとも、目的外ともされていない。

また被上告人は、そもそも本件会館設置管理条例六条一項三号(その他会館の設置目的に反すると認められるとき)を一切拒否理由にはしていなかったものであることは証拠上明白であるにもかかわらず(甲第一、第三号証)、また第一審判決まで原判決の如き主張も証言も一切存在しなかったにもかかわらず、経験則を無視して強引な証拠の取捨選択、価値判断をなしているのである。実際、第一審証人富岡は、「集会を主催する目的を問題としたものではない」旨明言しているのである(第一審 第六回 九丁)。

(二) また、管理者に、「混乱が生ずるかもしれないとの危惧感」あるいは「他の施設の利用客の不安」があったとしても、これらが「管理上の支障」にあたるとする根拠は一切付されていない。

そもそも、第一審判決が認めたとおり、「外部からの攻撃等の危険性が高度に存在する結果、警察の警備を要する状態であったことを認めることのできる証拠はなく、それ以上に警察が警備をしてもなお利用者や近隣住民の生命等に危害が加えられる危険性が高度に存在することを認めるに足りる証拠は全くない」のである。

逆に、原審証人小池の供述によれば、警察は会館側に正式に整備要請をなすことを求めていたにすぎず、混乱の生ずる蓋然性については一切証明はなく、また、警察力をもってしても、なお明白な危険が発生する蓋然性があるなどということは一切存在しないにもかかわらず、たんに主観的な「住民の不安」管理者の「危惧感」を理由として管理上の支障とすることは、従来の前記判例の趣旨からしても全く合理的ではないものといわざるをえないものである。

(三) 更に原判決は、本件合同葬を実施した場合、結婚式等を同時期に行うことが事実上困難であることを挙示しているが、これも全く理由にならない事柄である。

葬儀参加者の出入りが他の利用客の目に触れることにより、事実上、同時期に結婚式を行うことが困難であるとは経験則上ありえないことである。

そもそも本件会館は、ホールなど種々の施設を有する多目的な施設であって、結婚式を優先的に使用させるとの規定も設置目的も存在しないものである。従って予定もされていない結婚式が困難になるということを理由に拒否することなどできないものといわねばならない。

しかも、会館管理者としては、上告人の使用許可申請時に、結婚式申込者が存在しなかったのであるから、申込順に許可手続をとる機械的原則を無視して、将来あるか否か不明の結婚式の申込を配慮して拒否することなどまさに権限を濫用したものといわねばならない。

(なお、公正の見地からすれば、仮に後に結婚式の使用申込者が出現し、同人が合同葬と同時では不都合であると主張したとしても、後の結婚式場申込者に対し、日時の調整等を指導することが適正なあり方である)。

なお、合同葬予定日は二月一、二日の真冬であり、いわゆる結婚式シーズンとしてはオフシーズンであることは公知の事実であり、かつ結婚式の場合数ケ月前から予約することが多いこと、実際、本件会館の場合、右予定日にその後も使用申込者が存在しなかったこと等から、原判決の右認定には合理性がないものである。

(四) 原判決は、被上告人は本件会館の運営にあたり、結婚式場があるため、基本的に葬儀のための利用には消極的であり、過去に市民葬等があったことは除き、従来から一般葬儀のためには全く使用されていないこと、また本件会館には斎場としての設備がないことが認められるとしている。

① しかしながら、被上告人は、本件会館使用申込に際して、一般葬儀にはホールを使用させていないことなど一切明らかにしておらず、本件会館を合同葬として使用することは消極的であったとか異例であるということはできないのである。また、本件会館設置管理条例上も、葬儀を禁ずる旨の規定はなく、条例を客観的に解釈しても、葬儀は「福祉の増進」に該当し、なんら目的外もしくは異例というべきものではない。

実際、被上告人自身、市民葬等で葬儀に使用されていることを認めているのである。

② また本件合同葬は、第一審柳沢証言にあるとおり、すでに密葬は一二月四日に行われており、合同葬はJR総連、JR東労組などが合同して、組合活動に献身した田中部長殺害を弾劾し故人を追悼するものとして、スライド等も上映して一〇〇〇人規模で実施するとしたものであって、追悼式という表現内容をもった集会であって、形式的に市民葬と同様のものである。

また、斎場の設備を必要とするものではない。実際、上告人が会場に斎場の設備を要求したこともないのである。

原審小池証人は、本件合同葬が、本件会館で過去行われた市民葬と同様のものであり、会館設置目的に適うことを認めつつ、市民か否かで区別するのだと述べており、原判決の如く、葬儀一般に消極的であったか否か、斎場設備の有無の問題は全く関係がないのである。(原審 第六回 九、一〇丁)

(五) ところで原判決は、右に述べたことに加え、次に述べる事実を一切無視している。

① 本件合同葬について、妨害行為などが行われ、混乱が発生する蓋然性がないこと

イ 本件合同葬については、当時公表もされておらず、具体的な妨害行為などは全く発生のおそれさえ証拠上存在しないこと

ロ 本件合同葬と同様の過去の合同葬が、高崎、水戸の各公共施設で行われたが、妨害も一切なく、なんらの混乱もなく、国会議員等も参列して、実施されたこと

ハ 本件不許可処分により、日時場所を変更して行われた田中部長の日比谷公会堂の合同葬は、なんらの混乱なく実施されたこと

ニ 地元警察が警備をなしてもなお利用者や近隣住民の生命等に危害が加えられる危険性が高度に存在する証拠上の根拠がないこと

ホ 被上告人館長自身、「葬儀に対する妨害のおそれ」を拒否理由としておらず、警備態勢とか混乱について、明確な分析・予測すら行っていないことから、管理者側が混乱のおそれなどを具体的に感じている状況がないこと

② 近隣住民等より、本件合同葬のための使用について、一切クレームなど出ておらず、「市民感情」や「懸念」といったものは管理者側の主観的な憶測にしかすぎないものであること、逆に市議より合同葬のための使用の要請を管理者側はうけていること

③ 本件会館では葬儀(市民葬)などが行われたことがあり、本件合同葬は、異例なものではなく、会館設置目的に反していないこと

④ 本件使用申込時において、他にホールの使用申込者は存在せず、しかも、結婚式場の使用申込者も存在しなかったこと

原判決は、右のような客観的に認められる事実を一切無視し、不合理な事実認定をなしているものである。

以上の点から明らかなとおり、原判決は、経験則を無視して証拠の取捨選択を誤り、重大な事実誤認をなしたものである。

以上の点から、原判決には理由不備もしくは重大な経験則違反があり、判決に影響を及ぼすことは明らかである。

よって、以上の点より原判決はすみやかに破棄されるべきである。

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